2015年12月8日火曜日

七人の敵

男には一度外へと飛び出せば、七人の敵が居ると言われております。

いついかなる瞬間も得物を抜き放ち敵を断ち切る覚悟と、隙を一切見せない注意力を保ち続け、己の身になることを絶対に見逃すな、ということに他ならないのである。

先日、このようなことがあり申した。





はたまた四面楚歌か


数人の学徒が夜半の電車内で些か盛り上がっていた。

けっして出来上がっていたという訳ではなく、単純に学業の話であるだとか、色恋の話を快活に繰り広げていただけのことだ。

しかし、それに一人の壮健な男性が意を唱えた。

ーー煩い。

それだけを告げれば良かったのだが、次の停車駅まで続く彼の訓示は少々度を越していた。終いには次の駅で降りろ、と言う。

電車が停車し男は更に学徒たちに降りろ、と詰め寄る。

ここで突然見かねた勤め他人らしき男性が、男を車外へと突き飛ばして言った。



ーー気にくわないならお前が他の車両に行け。

なおも話し合いをするから降りろと食い下がる男を睨みつけた男性は、そのまま自動ドアが閉まるまで仁王立ちで追い払うと、くるりと踵を返してこう言った。


終わりました。

学徒たちの感謝の言葉と、他の乗客からの畏敬の眼差しを一身に受けながら、男性はそそくさと自分の席へと戻っていった。

彼らは皆すべからく敵である


まず学徒、彼らはあなたの過去の琴線に触れる話題であなたの心を縛り付ける罠である。
彼らの会話に一度耳を傾けてしまえば、またたくまに懐かしい思い出や甘酸っぱい青春時代を想起させ、ともすれば充実していたのかしていなかったのかあなたの心の闇の奥底まで掘り起こさせ、これからを生きるための前進を阻む障害となるだろう。

耳に入る情報は確実に寸断し、弾きかえすことが良い。

次に学徒に絡んだ男もまた、まごう事なき敵である。
あなたの心を代弁するかのように学徒を叱りつけていた部分もあったのだが、それはあくまでも男がもとめる最高の結果を得るための方便に過ぎず、また学徒に与えるために放たれた重圧は、そのままあなたへものし掛かる重圧と変わる。

これまた視界や聴覚に進入してくる情報は可能な限り遮断し、自らの守備範囲の尊守を徹底すべきなのだ。するーすきるは既にまっくすである。

そして、男を突き飛ばし、追い出した男性もまた敵である。ある意味最悪な敵だ。

なぜならば、あなたがやるべき事を奪い去り、加えて賞賛を浴び、さながら英雄が如き振る舞いはあなたにこそふさわしいからである。

ドアが閉まるまでの筋書きを一瞬で考え、そしてそれを実行し、結果に繋げてしまえるのは並ではない。

なにより、すべてを取り囲む聴衆もまた、油断ならざる大敵である。

かれらはきっとそれぞれの都合や感情で男と男性と学徒を眺め、考察し、思い思いに断じるのである。

やもすれば、あなたも考察のひとつとして対象になっているかもしれないのだ。けしからん話と言える。

まさに四面楚歌


あなたに与えられた行動はただひとつ。




「皆殺し(Genocide)」


現実的に考えるならば、その日そこにいたあなたを周りの記憶から抹消すべく、さながら空気のように自らを透過させれば良いのだ。

日々、己を鍛え抜いているあなたであれば造作もない事だろう。

こうして、男子たるものは常に己を律し、相対するであろう全ての敵を抹殺することも大切であるし、時には懐柔するだけの懐の深さをみせながら、さらなる高みへと己を鍛え続ければ良いのである。



……そんな出来事があったんだけど、なんか書いているうちにえらい事になってしまったなあ~と思いましたとさ。


ではっ!!

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